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本社はブランディングの場に
本社に代表されるオフィスの意味は、「情報処理から知識創造へ」「管理する場から集まる場へ」「分業から協業へ」と変わりつつあります。
その流れの中でますます重要になる機能のひとつがブランディングです。「ワークプレイスが組織の構成員や社会に対してどういう物語を語っているのか」という意味です。ネットワーク型の企業モデルでは、どのように人々を上手にネットワークし、組織に新しい価値を持ち込むかがカギになるからです。
たとえば、ドイツのBMW社は、本社の隣接地にBMWワールドという巨大施設をつくりました。車の購入者はここで車を受け取って試乗したり、さまざまな情報を得て、経験価値を享受できます。効果的なブランディング戦略と言えるでしょう。
20世紀型の本社は社会に対して閉ざされていましたが、21世紀型の本社は社会に対してオープンで、多くの人々に企業のメッセージを伝える場に変わりつつあるのです。
オフィスを街に
ユニークなワークプレイスを実践している企業の1つに、イギリスの大手流通業、ドラッグストア・チェーンのザ・ブーツ・ザ・ケミストがあります。ブーツの本社オフィスは、本社屋を建てた際に、2つの棟の間に街路のような道を作って、そこにブーツの模擬店を配置し、社員がそこを行き来せざるを得ないような構造を作っています。そこにインフォーマルな会話ができるスペースも配置しているんです。ブーツは路面店なので、消費者の立場に立って考えるにはそこに行かざるを得ない。
流通業にとって購買者との接点が非常に大きな知をもたらす。そのためにストリートを作り、購買者の反応をつぶさに確認し、彼/彼女たちの、まだ声になっていないニーズ、つまり暗黙知を汲み取ろうとしたのです。常にマーケットの臨場感が失われない場所で、社員は会議をしたり意見の交換ができるのです。
広がるワークプレイス・ムーブメント
知識経済・社会の到来に応じて、知を創るあるいは情報を扱う人々のための働く場所の重要性はグローバルに広く認識されつつあります。
それぞれのお国柄で施策は違います。本書でも例を挙げる欧州では人々の創造性を喚起する自由な場の発想が好まれます。米国では、ルールです。一般調達局(US GSA)などの政府機関も米国連邦政府に対するワークプレイス基準、デザイン・ガイドを設定しています。
GSAはワークプレイスデザインのためにいくつかツールも用意しています。こうした動きの背景になったのはWorkplace20|20と呼ばれる研究プログラムでした。
基本的に彼らは文脈という言葉を使っていますが組織内に「場」を創りだすことの重要性を訴えています。たとえば、デンバーのGSAのオフィスでは、ワークプレイスを組織変革の触媒ととらえています。優秀な人材を惹きつけること、グループ間のコミュニケーションを改善すること、ストレスの解消、ビジョンの明示、などです。
このオフィスでは気軽に交流できる空間を多く取り、気を休めるような遊びの演出が行われています。このデザインに先立っては、組織の人間同士のネットワーク分析(Social Network Analysis)、ウェブ調査などをつうじて、グループ間のコミュニケーションのニーズ、所属意識の向上のなどの課題抽出、ストレスの観察などが行われています。
オークランドの沿岸警備隊のオフィスでは、ワークプレイスを組織の知識の共有と維持に積極的に活用しています。このオフィスではほぼ四年ごとにスタッフがいれかわります。そこで知の移転が大きな課題でした。最初に組織調査を行いました。鍵となるプロセス、人間関係を観察し、インフフォーマルで暗黙の相互学習の機会があることを見いだしました。そこでは、表面的なトレーニングはあまり役立たないとおもわれました。
そこでパーティションを取り払って、仕事の流れが動きがわかるようにしました。そしてちょっとした休憩の場所、ミーティングのできる「タッチポイント」などを設けて相互作用とコミュニケーションを促進しています。
ナレッジワーカーのためのワークプレイス
これからの経済の主力となるのがナレッジワーカーです。
誤解する人が多いのですが、ナレッジワーカーはホワイトカラーと違います。ホワイトカラーとは単に情報処理をする人であって、場合によってはリストラの対象にもなります。私はそれが正しいとは思いませんが、現実としてはそうなのです。
一方でナレッジワーカーは「知」を創りますから切ってはいけない。その判別が経営上は重要になってきます。
ところが、ナレッジワーカーが充分に活躍できる「場」はなかなかありません。
Web2.0について書かれた本で『「みんなの意見」は案外正しい』というのをご存じですか?
ネットワークされたナレッジワーカーの世界の話で、たとえば牛の体重当てコンテストの話が出てきます。目の前の牛の体重を、見ただけで村人に当てさせようというのですね。専門家は「そんなこと絶対にわからない」と言っていたのですが、800人くらいの平均値をとってみると、案外、正確な値だったそうです。
このようなものを集合知といいます。そして、実はナレッジワーカーは、ひとりひとりがオフィスのなかで仕事をするのではなく、集合知を使って仕事をしているのです。
となると、ナレッジワーカーが活躍しやすいオフィスは、先ほどのロジックではつくれません。不可能です。そこでどうデザインするのかという話になるのです。
これまで、オフィスコストは、バランスシート上、小さければ小さいほどいいとなっていました。ホワイトカラーのモデルではそうなり、そのままだとオフィス学も小さくなってしまいます。つまりそんな学問などいらないのです。
しかし知識経営ではそうは考えません。オフィスデザインは知識創造のプロセスで見て考えます。したがって、新しいオフィスを超えた視点が重要になってくるのです。
オフィスは動いている
ワークプレイスの入れものはオフィスだけではないのです。もっと分散したものになる。したがって、空間やツールへの捉え方もまったく変わってくるでしょう。
オフィスはまさに生きものです。
みなさん、病院に行くとき、ハードウェアとしての病院の建物を想定するわけではないはずです。そこで受けられる治療というソフトウェアが目的なのです。学校だって同じで、教室に机が並んでいればいい学校になるわけではない。
オフィスもそうなのに、なぜかハードウェアの発想から抜けられない。そこに問題があるし、ワークプレイス・デザインの必要性があるのではないでしょうか。
オフィスが動かないという考えはまちがっています。
禅宗の坊さんである道元は「青山、常に運歩す」と言ってまして、私は昔、山が歩いているなんてどういうことだと思ったものですが、考えてみれば地球も回っているのだし、プレートテクトニクスによって陸地も動いている。
ビルディングスキンというコンセプトがあり構造物としての建物は100年も200年ももつようにすべきかもしれません。しかし内装は10年、インテリアは5年くらい、情報システムに至っては毎年のように変わっていく。だからオフィスは、常に、知識創造できる場へと変化していなければならないのです。
